旅のエッセイ

中国…イスラム街…とくれば、羊肉串。

イスラム街を散策しながら、串に刺された羊肉が店の軒先でせっせと焼かれる風景を眺める。羊の脂が炭の上に落ち、炭はジュッと音を鳴らしさらに熾り、そこから煙がもうもうと立つ。そのまま雲にでもなれそうなほどもうもうと。と、同時にスパイスのにおいも香り立つ。わたしの口内がじゅんわ〜とつばきで潤い、騒がしくなってくる。食べなきゃおさまらない。とりあえずお客さんの多いお店を選ぶ。

「これちょうだい」

パーにした右手を店員さんに突き出す。そちらの串、5本くださいな。すると店員さんは首を左右に振って、パーにした両手をわたしに突き出す。え、10?

「10本? 10本からしか無理なの?」

つたない中国語で何度も確認するわたしに店員さんは「ああーっ!?」と大きな声で聞き返してくる。怖(しかしこの感じこそが中国体験)。 すごくめんどくさそう。だけどひとりで10本も食べれない。すみません、と席を立ち、希望本数で売ってくれるほかのお店を探すことにした。しかし結果、どこのお店も10本からだった。こうなったら10本食べるしかない。

残したくないので見た感じいちばん身の小さいお店を選ぶ。お客さんは少なかった。羊肉串はすぐに運ばれてきた。ダメ元でビールはあるかと聞いたら、日本の居酒屋の「いらっしゃいませー!」と同じトーンの声量で「没有(メイヨー)!」と返ってきた。没有は何度聞いても「ねぇよ!」に聞こえて笑える。くふふ、とニヤニヤしながら極細串をくわえて上下前歯で羊肉を挟む。串を横にスライドさせてチーッと羊肉をはずす。噛む。お肉の身と、脂と、こんがりしたスパイスのうまみが、じゅわっ。きゃー! おいしー!

脂まわりの少し焦げた部分がおいしい。身が小さいせいかスパイスの風味が口のなかに濃く残る。ビールのおつまみ指数、爆上がり(あ〜青島ビールと食べたかった〜)。気がついたら10本ぺろり。最高。

翌日の散策で、1本から注文できる立ち食い羊肉串屋台があった。あるのね。近年は中国人観光客向けのお商売も発達しているようなので、ビールが飲めるお店もありそう。

中華料理がわかるWEBメディア 80C(ハオチー)の記事 「『羊名人』とサイゼリヤ『やみつきスパイス』が似ているという噂は本当か?」。いまはまだ気軽に行けないので、市販スパイスをいろいろ試してみるのもたのしそう。

書籍『旅をひとさじ—てくてくラーハ日記—』書影

選りすぐりの写真とエッセイを収録!

書籍『旅をひとさじ—てくてくラーハ日記—』松本智秋 著

A5判並製・コデックス装・フルカラー・144頁
定価:本体1800円+税

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