大川史織さん
映画監督
智秋さんは、ふしぎなポケットを持っている。 ポケットのなかには、ビスケットがひとつ。 「飴ちゃんいるか~?」って、じゃら~んと飴玉も出てくる。 ポケットをたたくと、毛糸がひとつ。 「旅先の停留所とか、ちょっとした合間に編むのも、ラーハやな」 もひとつたたくと、カメラがふたつ。 旅の酸いも甘いも味わってきた相棒の佇まいに、わたしは一眼見て、やられた。 「さわって、さわって!」 ドキドキしながら、わたしが相棒に触れることを、智秋さんはゆるしてくれた。 心臓部に貼り合わされたマステが、イスラムをなぞる航路にも見えた。 智秋さんのふしぎなポケットが、一冊の本になって、わたしはまず57画の麺を買いに走った。
大川史織さん
ドキュメンタリー映画『タリナイ』(2018年)、『keememej』(2022年)監督。みずき書林からの編著書に『マーシャル、父の戦場 ――ある日本兵の日記をめぐる歴史実践』(2018年)、『なぜ戦争をえがくのか ――戦争を知らない表現者たちの歴史実践』(2021年)がある。
Twitter: @tarinae_film