岡田林太郎さん

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おやつ+対話+本作り=ラーハ
ポルトガルの焼き菓子。クッキー。最中。焼き芋。ミカン。豆大福。栗のどら焼き……。
淹れたてのブラックコーヒー。

著者・智秋さんとデザイナー・見元さんと、編集者・岡田による編集会議は、いつもおやつとともに進んでいきました。

本のサブタイトルに用いた「ラーハ」とは、アラビア語で、仕事でも余暇でもない第3の時間を表現することば、とのことです。

日本語でぴったりする訳語はなかなかありませんが、お金を稼ぐための仕事の時間でもなく、その代価として余った時間を埋める遊びの時間でもなく、もっとおおらかで自発的に過ごす幸福な時間を意味するようです。

本を作ることは、もちろん仕事でありビジネスです。

でも、窓から空が広く見える見元さんの事務所で、昼過ぎから夕方にかけて移り変わっていく光を背景に、おやつを食べながら笑いあったり真剣な話をしたり、ときに大幅に脱線したりしながら過ごした時間は、いま思えばラーハに近かったのかもしれません。

本来のニュアンスとは少し違うのかもしれませんが、われわれのラーハは、仕事も遊びもぜんぶ含んだうえで、さらに積極的に喜びを求めた時間だったように思えます。

おやつ+対話+集まる目的としての本作り=われわれのラーハでした。

そんな時間の末に出来上がった本には、智秋さんのおおらかさと人懐っこさ、好奇心と食いしん坊さが満ちています。そしてそこには、異国を見つめ続ける彼女の、戸惑いと怒りのフレーバーも感じられます。

シロップがじゅわっと沁み込んだ激甘なポルトガルの焼き菓子と、ビターなブラックコーヒーの組み合わせのように。

岡田林太郎さん
岡田林太郎さん
1978年、米・ボストンで生まれる。早稲田大学卒業後、出版社に入社し編集の仕事に携わる。2012年、社長に就任。2018年に退職し、同年3月、自身の出版社である「みずき書林」を設立。ひとり出版社として始動。戦争体験を持たない表現者が、どのように戦争と出会い向き合ってきたかをまとめた「なぜ戦争をえがくのか」大川史織編著、など骨太の書籍を刊行してきた。

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