旅のエッセイ

※この記事は2021年の3月に書かれたものです。

それぞれがそれぞれに大変だったろうコロナ元年。その厄災の大きさを思うと、娯楽や趣味がままならなくなった閉塞感程度のものは、どこか口にしにくい。

だけど…でも…。

海外旅行好きの人たちにとってはなかなか苦い1年だったのではないでしょうか。
少なくともわたしにとってはスーパーウルトラビター、ぺっぺと吐き出したいほどの苦さをギシギシとしがんだ1年でした。そしてまだもう少し、この苦味を味わう日々が続きそう。うええ、苦い。

先日、つくば市にあるスリランカ寺院「スリ・サンブッダローカ寺」へ行ってきました。

あ、すみません、急に話がスリランカに飛んで。いやだってもう苦すぎるからその苦味、薄めたいじゃない。現地に行けないなら国内でなにかないかってなるじゃない。

それにしても茨城県のつくば市にスリランカ寺院があるとは意外だった。寺院のHPもインターネット黎明期を思わせる「近所のちょっと機械に詳しいおっちゃん」が作成したような仕様で、そんなところもアジアの呑気な空気を思い出せて好感がもてる。
http://srisambuddhaloka.jp/

スリ・サンブッダローカ寺は、民家が並ぶ狭っこい道中、突然現れる。たまたまここに土地が空いていたのだろうか。「唐突になぜここにスリランカ」感がすごい。

風景に馴染まない、等間隔に象が並ぶ白壁。

入り口には2度にわたる「どうぞ」。超ウェルカムです。

門をくぐり車を駐車すると、その目の前には2016年に建てられたというなかなか 立派な大仏が鎮座していた。お寺が建立された2010年からの6年間はどうしてたんだ ろうと思うほど境内目玉スポット。

わが家にもあるIKEAのキャンドルランタンがお釈迦様の御前に。

親近感…

人の敷地に無断で入ってしまったような気持ちでお寺をうろうろしていると、僧侶らしき男性が境内にある建物から出てきて、案内してくれると言う。ありがたい。
「鍵を取ってくるから、眺めながらゆっくり過ごしてて」と案内された壁際の庭。

「出窓? ありませんよそんなもの」と言わんばかりのペイント。

鍵を携えた僧侶は、大仏の左手側にあるほったて小屋へ案内してれた。ツルツルのサテン生地を垂らした台座に、手塗りのペンキで色分けされた5つのブース。そこにそれぞれ収められた5人の神様たち。僧侶は「こちらが〇〇の神様です」とサテン生地をまくりあげ、ブースに貼られた神様たちを丁寧に紹介してくれる。

…貼られた?

そう、神様みんな、ポスター状でした。紙。

「ああ…これ…この感じ…」。アジアの旅で時折出くわす、こちらが戸惑うほど神々しさのないカジュアルな神様たちの佇まいに、じわじわと笑いがこみあげる。

このスリ・サンブッダローカ寺、ひとことで言う意味はないけどひとことで言うと「D.I.Y寺院」。寺院内にはホームセンターで購入したであろう材料が、あちこち露骨に置かれていて、突貫工事で拡張していってる様が随所に見られた。

案内人をつとめてくれた僧侶も、話を聞けば僧侶ではなく、昨春まで静岡の大学に通っていた留学生だという。こうなるとこちらが勝手に僧侶と思い込んだだけの僧侶風青年も、D.I.Y的配置に思えてくる。

ただ、僧侶み有りすぎるこちらの青年。卒業後に春からこの寺院にいる理由をうかがえば、コロナによって現在スリランカへの帰国が許されず、行くところもない為ここに滞在しているのだと言う。予想だにしなかった気の毒な経緯に思わず「早く帰国できるといいですね…」と声をかけてしまう。すると青年は「そうですね。まあ、ここで友達もできたし、はい、楽しいけどね~、まあ、早く帰りたいですけどね~」とどこか気のない返事。話すことにもう飽きてそう。

彼の真意はいざ知らず、冒頭で書いた「それぞれがそれぞれに大変」。帰国できない彼の「大変」を知り、多種多様ないろんな困難が降りかかっているのだなあと痛感した。

スリ・サンブッダローカ寺の近くにはおいしいスリランカ料理屋もあるそうです。
つくばでスリランカ体験、いかがでしょうか。わたしも国内にある外国エリア探索は、コロナ禍のおたのしみとして引き続き進めたいところ。

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