パンキシでのこと
きのうのエッセイ「月明かりの夜の旅」で少し書いたイスラムの原理主義者のこと。きょうはそれにまつわるお話を。
これまで何度も訪れたイスラムの地域。そこでは行く先々で歓迎され、あたたかく接してもらってきた。ときにはイヤな人とも出会うし、値段交渉で大揉めしたり、痴漢に遭うことだってあったけれど、そんなことはすぐに帳消しになるくらい、現地の人たちからよくしていただく機会に恵まれた。
ところが、パンキシ渓谷でわたしは初めて「歓迎されない」という経験をした。
パンキシの町を走る一本道を歩いていると、男性が数人集まって町の小さな広場で立ち話。そのなかに、若いながらたっぷりと口ヒゲをたくわえ、ターバンを巻いている青年がいた。パンキシの人たちの服装はデニムにTシャツといたってカジュアルなのに対して、報道でよく見た過激派の人たちを彷彿とさせる彼の風貌は目立つ。
その広場で少し休憩したくてベンチに腰掛けると、その青年と目が合う。その瞬間彼の目は冷め、視線を逸らし、ほかの男性たちになにか促している。すると広場にいた人たちが一気にサササーッとわたしから離れ、広場を出ていった。いきなり、ぽつん。
「ああこれがパンキシにいると聞いていた原理主義の人か……」
宿に帰ると、宿主レイラさんの娘(15歳だったかな)がいたので「別になにかされたわけじゃないけれど、あんな冷たい目をされたの初めてでショックだった」と話すと、娘は「気にしないで。あの人たち、わたしにもそうだから」と呆れた顔をして言った。「わたしたち女性が髪を出し、身体のラインがわかる服を着て学校へ行く。そのことを彼らは許してないの。だからチアキ、気にしないで。あなたにだけじゃない」と。
パンキシにはこれといった産業がない。だから観光業でなんとか収入を得ようと「パンキシは安全!みんな来て!」と熱心に話す人たちがいる。しかしその一方で、少数ながらそことは相容れない、強固な思想の持ち主がいる。両者の溝は絶望的に深い。どこかイスラム情勢の縮図のようなパンキシ。
誤解のないよう書きますが、パンキシはのどかです。いまは本当に大丈夫。ただ、そういう人たちもわずかながら暮らしている地域なので、極力刺激しないよう、露出の激しい服装やモスクにずかずか入っていくようなことは避けたい。それはイスラムやパンキシに限らず、どんな旅先でだって必要とされる敬意と配慮だけど、より一層そうであったほうがいいなあ、と。
のどかなパンキシでの写真を貼っておこう。いいところなのですよ。