旅のエッセイ

『旅をひとさじ』P.46に登場するラグマン。中央アジアのラグマンは麺が伊勢うどんぽく、ウイグルで食べたものは弾力ありあり讃岐系、もしくはもちもち細め稲庭系だった。しかし短い旅の期間に食べただけ、なわたしのラグマン経験値は低い。わたしが食べたなかでの傾向にすぎないので、そのあたりを自覚しだすと「いやほんとにそうなのか?」と、どんどん声が小さくなってしまう。それでも、もちもち麺に炒めた具材がじゃららーっとのっかっているウイグルのラグマンはやーっぱりおいしい!(声ふたたび大きめに)

これはウズベキスタンで食べたラグマン
スープ多めでディルがふぁさっと
どんぶり具合もまさにうどんな感じ

『旅をひとさじ』の制作を終えたころ、シルクロード・タリムへ岡田さん夫妻と見元くんと食べに行った。東京でウイグルのラグマンならタリムのがおいしい!と評判のお店。

一皿の分量が多いため、旅行中は残すことを前提に注文もできずで、どうしても単品注文になりがち。なのでタリムで初めて食べるものも多かった。数人いるといろいろ食べられるのでたのしい。

岡田さんお気に入りのゴシナン
羊肉のウイグル風ミートパイ
コイパチャック コルミス(羊足の炒め物)
羊の足はじめて食べた!小ぶりで食べやすい
メニュー名は「もちもちラグマン 『旅をひとさじ』を添えて」

ラグマンは期待どおり、もちもち麺に炒めた具材をじゃららーだった。おいしい。好き。量に対してお皿が小さめなのも現地の食堂ぽい。

岡田さんが描いたラグマンを食べるおっちゃん笑
(『旅をひとさじ』P.43 参照)

帰り際、お店のオーナーから聞いた話がおもしろかった。

むかしむかしにラグマンが中国大陸にも広がっていき、呼称も拉麺(ラーミェン)となり、それが日本にも渡りラーメンとなり……という麺史。を、中国が突然「ラーメンの発祥は中国」と言いだし、どちらが発祥か問題が勃発したのだそう。

いきなり中国に(麺史までも)捻じ曲げられるのは、たまったもんじゃない。ウイグルの人たちがやきもきしていたそんな折、2002年だったかな、ウイグルで「ラグマン」が出土。これが決定的な証拠となり麺史が捏造されることはなくなったのだそう(……といっても普通に「ラーメンの発祥は中国やで」て言ってる中国の人たくさんいそうだけど)。

これがラグマンが発掘されたときの記事だと見せてくれた

かなり具体的なカタチでラグマンが残っているもんだから、第三者はすこし笑っちゃう。

タリムの口コミに「お店の人から政治の話をされて萎えた。ごはんを食べに来ただけなのに」なんていうのを見かけた。うん、わからなくもない。若い頃のわたしならそう思っていたかもしれないし。

だけどいまは、日本でウイグルの料理が食べられることと同じように、ウイグルの人たちからいまウイグルでなにが起きているのかを聞けることも、貴重な機会だと思うんです。関心を持つキッカケはわたしの場合は旅だったけれど、ごはんキッカケで関心を持つ人が増えていくこともきっとある。食事のあとにいきなり政治の話をされたらギョッとするかもしれないけれど、敬遠せずに耳を傾けてみてほしいなあ……なんてね、思わずにはいられない満腹な帰路でした。

ウイグル料理を前にし、
鼻の下がのびてるわたしと見元くん
書籍『旅をひとさじ—てくてくラーハ日記—』書影

選りすぐりの写真とエッセイを収録!

書籍『旅をひとさじ—てくてくラーハ日記—』松本智秋 著

A5判並製・コデックス装・フルカラー・144頁
定価:本体1800円+税

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