旅のエッセイ

バングラデシュ・ダッカでのトランジット一泊。安宿を検索すると「排水口からGがうようよ出てきた」「寝てたら天井からGが落ちてきた」とGにまつわる身の毛もよだつ口コミをたくさん目にし、あまりの恐ろしさにAirbnbで宿をとることにした。

選んだのは、お母さんが『旅をひとさじ』P.39 に登場している、息子が英語ペラな一家が住んでいるお家。安宿よりは高いけれど、古い建物ながら(そもそもダッカで古くない建物を探すほうがむずかしい)掃除がきちんとされていて清潔だし、Gもわたしの滞在中には出現しなかった。

荷を下ろし、街の中心部に出る。

ダッカの街は強烈だった。街の雑音好きなわたしも目がうず巻きになるほど、ひとつひとつの音がフルボリュームで耳も頭もキンキンしてくる。たとえば、日本で聞くクラクションが

プップー

なら、ダッカで聞くクラクションは

ブパー!
ブパー!
パーーーーー!

て感じ。これが何十台もの乗り物から容赦なくパーパー鳴る。クラクションを鳴らされた乗り物がスムーズに動く前に、地球が割れそう。馬車に乗車すると、先の十字路でわらわらと道を埋めているの人たちの姿が見えた。各々の進行方向が自由すぎる。馬もえらいよ、ほんと。桁違いのお金持ちになれたら、ダッカの街に信号機を設置したい。

ぐっちゃぐちゃ

ダッカでは、なにをさわっても手が汚れ、たった1時間ほどで指と爪の間は黒くなった。「これはもしや」とティッシュを丸め鼻に入れてみると、案の定ティッシュは黒く汚れていた。これはバンコクとカトマンズでもそうだった。「ここは空気も汚れてそうだな」と思っての鼻ティッシュなので、鼻からティッシュを出し黒くなっているとちょっとうれしい(というか黒くないとちょっと物足りない)。大気占いみたいなものですね。

そんなダッカで「ん?あの白く輝いているのはなに???」と目にも鮮やかな、まっ白な動く物体を発見。走って近づくと、子ヤギだった。たった数時間だけど「まっ白」という色が自分の記憶から抜け落ちていた。あまりの汚れてなさに感動する。

ダッカで見た唯一の「まっ白」
上品でまぶしかった

その後、ダッカの市役所屋上からは旧市街と新市街の両方を眺められると聞き、行ってみる。お役所のエレベーターのボタンすらもダッカぽかった。どっちを押せば上へ行くのかわからない。

たどりついた屋上からは、ダッカの街が一望できてよかった。そしてなにより人がいない。この静けさを欲していた。はああああああ〜と大きく息をつく。疲れた。とても疲れた。だけどなんだろう。きらいじゃない。むしろたのしい。といって、ダッカのいいところを書こうとしてもなにも浮かばない。好きかと聞かれると、そうでもない。でもきらいじゃない(2回目)。ふしぎな街。

新市街には高層ビルもたくさん
旧市街で見たひし餅のような建物

さてそして、ごはんから思うダッカ(バングラデシュ)はまたひと味もふた味も違っていたりする。次回はおいしかったビリヤニのお話を。

書籍『旅をひとさじ—てくてくラーハ日記—』書影

選りすぐりの写真とエッセイを収録!

書籍『旅をひとさじ—てくてくラーハ日記—』松本智秋 著

A5判並製・コデックス装・フルカラー・144頁
定価:本体1800円+税

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