旅のエッセイ

ひとつ前のエッセイでトルコのエディルネのことを書いたら、ブルガリアの旅を思い出した。初めてのブルガリアは、そのエディルネから国際バスに乗って向かったのです。到着したのは第二都市プロヴディフ。

基本的にわたしは、旅のスタートは首都(一番大きな都市)からと決めている。そこから地方都市や町村へ足をのばすのがちょうどいい。逆だと地方ののんびりした空気に慣れ親しんでしまい、大きな街を十分にたのしめなくなってしまいがちで、それがもったいない。

とはいったって、陸路での国境越えとなると地理的にそうもいかない場合が出てくる。ブルガリアがそれ。首都ソフィアはちょっと西すぎた。

イミグレ近くのトイレ使用料
上からトルコリラ・ブルガリアレフ・ユーロ
こういうのを見られるのが国境越えのたのしいところ

プロヴディフでいい感じの食堂を見つけ、迷わず入った。ブルガリアの第1食目。食べたかったカヴァルマを注文するとすっごくおいしい(結果ここのカヴァルマがいちばんおいしかった)。これが『散歩とごはんのくり返し』でいちばん最初に登場するごはん。

そしてわたしはこの食堂でお客さんだった夫婦に声をかけられ、そのままお家へ遊びにいく。ふたりとも陽気でとても親切。年齢の割に英語もできる。あとで知るのだけど、奥さんターニャはブルガリアン・ボイスで超有名な歌い手だった。その活動で世界各地を訪れる機会が多く、英語はそういうこともあって多少できるようになったらしい。日本にも一度来たことがあるらしく「マサノリさん」にたいへんお世話になったと何度も言っていた。1時間ほどたのしくおしゃべりして、おいとまする。

翌日。

お礼にりんごを買ってふたりの家に行く。ふたりはすごく驚いて、すごく喜んでもくれ、さあどうぞとケーキが出てきてわたしが渡したりんごも出てきた。

わたしはこのケーキが出てきたとき「この旅は間違いなくたのしいものになる」と思った。こういう勘はだいたい当たる。実際このブルガリア旅行は幸運が次から次へと舞い込み、できすぎなくらいうまくいった。

旅の予感。

それはとても曖昧でことばで明瞭に説明できるものではないけど、確かにある。そんな予感を表す愛らしい一皿。りんごは、そんな予感への案内役のようだった。

ブルガリア大好き(結局わたしはそれが言いたかっただけかもしれない。うふふ)。

書籍『旅をひとさじ—てくてくラーハ日記—』書影

選りすぐりの写真とエッセイを収録!

書籍『旅をひとさじ—てくてくラーハ日記—』松本智秋 著

A5判並製・コデックス装・フルカラー・144頁
定価:本体1800円+税

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