旅のエッセイ

タイのバンコクにいる。

今時期は雨季なので一日に一度はドザッと雨に降られるかと思っていたけど、この五日間まったく。真夜中に一度ざんざん降った程度で終わった。これはこれでこちらの人も最近は雨が降らない異常気象だなんて話しているんだろうか。

ひさしぶりにバンコクの街ブラをするつもりが、日中の陽射しはまるで光線。肌がちりちりと痛むほど強い。そして暑い。散歩はもっぱら夜になった。

アジアの発展と日本の停滞のせいか、随分と差がなくなったなあと思う。物価も20年前に比べると2〜2.5倍に上がった感じで、以前のような割安感はあまりない。あ、タクシーは安いな。だけど「100円ちょいでパッタイとかクイティアオ食べられるー!」なんてキャッキャしてた感じはなくなった。円安のみならず暗いニュースが多くて、以前よりうんと海外旅行が贅沢なものに思える。

とかなんとかぶつぶつ言ってるけど、おいしいこのクイティアオが200円ちょいで食べられる至高の旅グルメを楽しんでいる。なんか、歳をとるとぶつぶつ言いたくなるのかな。やだなあ。

おいしそうに見えないけどおいしい。茶色の飲み物は竜眼(ロンガン)ジュース。ロンガンはライチに似た果物。日本の冷やしあめっぽい甘〜い飲み物

飛行機で機内食を食べること、降り立つとことばも使用通貨も気候も変わること、パスポートが必要なこと、わたしが外国人になること。日本出国前の空港でのあのとめどなく溢れた感情は、バンコクに到着すると途端に蒸発し、気化した。旅が始まるといつもそう。目の前に立ち現れた異国の日常にHello, how are you? するのにいそがしいので、感傷的になっている間なんてない。

ああ、やっと来られたよ。
元気そうでなにより。
泣けるね。

書籍『旅をひとさじ—てくてくラーハ日記—』書影

選りすぐりの写真とエッセイを収録!

書籍『旅をひとさじ—てくてくラーハ日記—』松本智秋 著

A5判並製・コデックス装・フルカラー・144頁
定価:本体1800円+税

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